なぜ耕さないか

 私は、トラクターを使わないで極力畑の土を掘り起こさない不耕起栽培を実践しています。


 一つ明確にしておきたいのは、私がやっている農法は、不耕起だけでなく、肥料も与えない自然栽培とは違うということです。私は牛糞や馬糞、ミミズ堆肥、落ち葉堆肥、かきがら石灰などを、栽培する作物や土の状態を見て加えています。


 本題に戻って、なぜ耕さないかということですが、逆に耕すと何が起こるかということも併せて、ポイントごとに整理していきたいと思います。


1.土の構造を守る

 少し専門的な話になりますが、土には土の物理性、生物性、化学性という3つの性質があります。物理性は、土の柔らかさ、通気性、水はけのよさ、水もちの良さなどを指していて、その物理性の向上には土壌の団粒構造が深くかかわっています。団粒構造とは、土が小さな塊になっていてそれらが並びあうことで塊と塊のあいだに隙間ができている状態のことです。隙間があるので、フカフカで、通気性がよくなり、水分を保持することができ、余分な水分は地下へ吸収されます。

 少し前置きが長くなりましたが、耕さないこと、言ってしまえばなるべく土をいじらないことで、団粒構造をキープできます。

 団粒構造だけでなく、土の中は野菜や雑草の根やミミズや小動物が移動してできた穴がいたるところにあります。つまり、人が耕さなくとも根っこや微生物が土を耕し柔らかくしてくれているのです。

 フカフカな土があると野菜は根を地中深くまで伸ばすことができ、水分や栄養を豊富に摂取できるようになります。つまり、毎年たくさんの肥料を入れなくとも野菜が育つようになるのです。


2.微生物を守る

 スプーン一杯の土には数十億の微生物が住んでいると言われています。細菌、ウイルス、キノコやカビ、酵母などの菌類、ミドリムシやアメーバ、ゾウリムシなどの原生動物はみな微生物の仲間です。微生物は「分解者」とよばれ、地球上のごみを分解し掃除してくれています。畑でも、植物残渣や小動物の死骸を分解して、植物が吸収できる栄養分に変えてくれます。

 トラクターなどで耕すと微生物を殺してしまったり、微生物が住みやすい団粒構造が壊れてしまいます。

 また、ウイルスや細菌の中にはいいものもいますが、病気をもたらすものもいます。微生物の数や種類が豊富な土は、いいやつ悪いやつのバランスが保たれ、病気が少ない健康な土となります。


3.雑草の抑制

 土の中には微生物だけでなく、雑草の種子がわんさかあります。雑草が生い茂っているところをトラクターできれいに耕しても、土を掘り上げることになるので、1週間後にはまた新たな雑草が発芽してきます。耕さずに、雑草が小さいうちに処理し続けることで雑草の少ない土に近づいていきます。

 雑草が生えてしまってどうしようもなくなったら、縦30メートル横10メートルある大きなグランドカバーを広げて数か月置いておくと、きれいさっぱり雑草が微生物により分解されきれいになります。一回使ったら捨てるしかないプラスチックマルチとは違ってこのグランドカバーは何度も繰り返し使えるので、プラスチック削減にも寄与しています。


4.環境にやさしい

 二酸化炭素の排出による地球温暖化、気候変動が毎日のようにニュースで語られるようになってきました。これを食い止めるには二酸化炭素排出の抑制だけでは十分ではなく、すでに排出され空気中にあるCO2を何らかの形で回収して、空気中の二酸化炭素濃度を低くしなければ、パリ協定で定められた産業革命前からの世界の平均気温の上昇を2度未満に抑えるという目標に届きません。

 なぜこのような話をしたかというと、土は炭素の貯蔵庫となり温暖化から地球を守る救世主となりえるからです。

 耕して掘り上げられた土は表面に来るとCO2を空気中に放出します。言い換えれば地中にためてあった炭素を排出しているのです。逆に、耕さず、さらに緑肥や雑草などをすきこみ、微生物がそれらを地中で分解すると土は有機質の多い肥沃な土になります。それだけでなく、植物は光合成をし空気中から炭素を取り込みエネルギーに変え成長しているので、空気中の炭素が土の中に還元されることにもなります。

 化石燃料ももともとは、何億年も前の微生物や植物からできていて、もともとは地中にあったものなので、それらを空気中から地中に戻すことができれば温暖化を食い止めることができる、それくらいのポテンシャルが土にはあると信じています。



皆さんここまで読んできた中で、うすうすお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、すべては「土」のためです!土の健康!!

あと10年、20年かかれば理想の土づくり、野菜作りができているのでしょうか?

それとも楽で効率の良いトラクターをがんがん乗り回しているのでしょうか?


この不耕起栽培はやり始めはかなり大変ですが、やり続ければ続けるほど土は良くなっていきます。そして、土がよくなっていけば毎年投入する肥料や堆肥の量も少なくすることができます。

反対に、トラクターを使えば楽ですが、毎年大量のインプットをしなければなりません。そのために土壌の成分検査をしそれに基づいて足りない分の肥料を投入するという考えが一般的ですが、経済的にも環境的にもなるべくインプットを減らして畑の中で循環する流れを作っていけるのが理想だと思います。


 この農法を知ったのはアメリカで小規模有機農業を行ういくつかの先進的な農家の本や動画を見たからです。彼らは口々に「今から農業を始めるならトラクターは買わない方がいい」といいます。そんな彼らの思いに惹かれ始めたこの不耕起栽培。日本の気候や土質で合うのかわかりませんが、うまくいくかどうかやってみなければわからないと思うので、ほんとうにうんざりして懲りるまでもう少し粘ってやってみようと思います!

挑戦するだけの価値は大いにあると信じています。

Ayumu Agri ホームページ

茨城県常陸太田市の無農薬野菜農家Ayumu Agriのホームページです。

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